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2. 弱アルカリ性の硬水

水質?

水質については様々な書物やサイトで詳しく解説されています。しかしその多くは、ディスカスや水草などのための弱酸性の軟水を対象としたものです。フロントーサなどのタンガニイカ・シクリッドは弱アルカリ性の硬水で飼育します。この水質はタンガニイカ湖周辺の地質が、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)を多く含む石灰岩やドロマイトのような鉱物で構成されているためだと言われます。したがって、タンガニイカ湖の魚の飼育水槽には、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする石灰岩やサンゴ砂、CaCO3に加えて炭酸マグネシウム(MgCO3)も含むドロマイトなどの鉱物を入れることで水質の調整を謀るのが一般的です。もちろん、水質に影響しない砂や石を使用して別の方法で水質調整することも多いと思います。

一般の水槽では炭酸(H2CO3)とこれが電離して出来る一価の炭酸イオン(HCO3)の緩衝作用で水のpHが決定されると言われます。空気中の二酸化炭素(CO2)が水に溶け込むと水(H2O)と反応してH2CO3となり、逆にH2CO3がH2OとCO2に解離してCO2が空気中に揮発する反応も起こるようです。したがって水中のHCO3は空気中のCO2と繋がった一連の反応系の中にあると言えます。これに対してCaCO3やMgCO3を含む鉱物を入れた水槽では、これらが溶解・電離してカルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、二価の炭酸イオン(CO32-)が出来ます。CO32-は水中の水素イオン(H+)と反応してHCO3になるようです。条件によりこの逆の反応も起こるようです。したがってこの水槽では、「地面」とも言うべき砂や石が水中の炭酸イオンを介して空気中のCO2と繋がった、より複雑な反応系によりpHと硬度が決まることになります。(図A参照)この反応系で判りにくいのは、CaCO3とMgCO3、特にCaCO3の溶解の問題です。これは通常、水に溶け難い物質なのですが、水にCO2が溶け込んで炭酸となっていたり、あるいは他の酸の発生により、H+濃度が高い場合には容易に溶解すると言います。逆にCO32-濃度が高い場合にはCa2+はCaCO3となって沈殿するそうです。このCaCO3とMgCO3が絡んだ反応が、ディスカスなどの水質解説にはなくアフリカン・シクリッド水槽に特別な問題だと思います。これは他の淡水魚よりもむしろ海水魚、特にサンゴを飼育する場合と類似する問題なのですが、サンゴ水槽の場合にはタンガニイカ水槽の十倍以上のCa2+濃度を維持するためにCa2+を強制的に添加するようです。
 

 タンガニイカ湖水の成分組成は書物やWEBサイトによく紹介されています。(例えばこのサイト。)重要なのは、pH、硬度、浸透圧、微量ミネラルなどでしょう。pHは8.0−9.0、硬度はドイツ式総硬度で10前後、他種類の微量ミネラルを含んだ水、これがタンガニイカ・シクリッドの飼育に適した水質と言われます。

水道水がこのような水質になっていれば、残留塩素(カルキ)を除いただけの水道水を使えばよいのですが、水質調整が必要な場合もあります。タンガニイカ・シクリッド専用、或いはアフリカン・シクリッド用のpH調整剤(緩衝液、バッファー)とミネラル添加剤が市販されていますので、これを使用すれば簡単に飼育に適した水質に調整できます。

これを使用しない最も大雑把な調整法としては、底床または濾材にサンゴ砂を使用して、自然にpHと硬度が整うのを待ちます。微量ミネラルは水道水にも多少含まれますし、サンゴ砂からも溶け出すといわれます。粗塩を少量(0.05−0.1%)加えた方が魚の調子が上がる場合もあるようです。水道水の水質によっては、サンゴ砂だけでは十分なpHと硬度にならない場合もありますので、一度くらいは測定してみた方が良いでしょう。

簡単で正確なpHの調整方法として、炭酸水素ナトリウム(重曹、NaHCO3も使用できます。(詳しくは、下の炭酸水素ナトリウム(NaHCO3、重炭酸ナトリウム、重炭酸ソーダ、重曹)を水に溶かす場合のpH変化?を参照して下さい。)
 

水道水?

日本の水道水はpH5.8−8.6、硬度はアメリカ式硬度で300mg/L(ミリグラム/リットル)以下、0.1mg/L以上の塩素を含むことなどと決められているそうです。pH、硬度についてはそれぞれの項目を参照して下さい。これ以外にも実に様々な物質についてその許容値が決められていて、その範囲内で多様な物質を含んでいるようです。水道水に含まれる物質としては、硬度を決定するカルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)のようにタンガニイカ・シクリッドの飼育水に是非とも必要なものや、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)のように少量必要なものも含まれますが、硝酸イオン(NO3)、硫酸イオン(SO42-)、重金属(微量ミネラルとして少量は必要なものもある)、有害な各種の塩素化合物なども含まれます。その内容は地域により、また、季節によっても変りますが、必ず0.1mg/L以上入っている塩素は、良質な水道水が得られる地域でも除かなければなりません。塩素は水道水中では殆どが塩素分子(Cl2)でなく、次亜塩素酸(HClO)になっているそうです。pHが高い場合には少し次亜塩素酸イオン(ClO)にもなっているそうです。これはある種の漂白剤の成分と同じですので、魚類への毒性は高いと思います。塩素濃度がそれほど高くなければ、水道水を容器に汲んで1日程度放置するか、エアーポンプで空気を送り込んでおくと空気中へ抜けてくれます。一般的には市販の塩素中和剤を使います。

残留塩素については家庭用の浄水器売り場などで、その濃度を調べる試薬キットが販売されていることがありますが、塩素以外の有害成分を自分で測定することは、一般の人には難しいことです。水道水中の有害物質の量については、各地域ごとに評判のようなものがあり、家庭でも日々感じていることと思います。また、水道局に問い合わせたり、WEBで調べることも出来るでしょう。例えば主にNO3として含まれる窒素「原子」(N)の濃度については、数値が明らかな場合が多いのですが、平均的な水道水には、0.5−2.0mg/L、多いところでは10mg/L含まれているようです。タンガニイカ湖水の窒素濃度は0.07−0.08mg/Lとされます。(魚を飼う水槽では窒素はもっと高い濃度になってしまうので、これらの数値は余り意味がないとも考えられますが。)

水道水が良くないと思われる場合は、観賞魚用の活性炭フィルター式の浄水器を使う必要があると思います。この場合は塩素中和剤を使用する必要はありません。水道水を浄化する機材としては、リバースオスモシス(R/O、逆浸透)装置やイオン交換樹脂もありますが、一般的なタンガニイカ・シクリッドの飼育には、活性炭フィルターで十分ではないでしょうか。活性炭ではCa2+、Mg2+のようなイオンは殆ど除かれないそうです。しかし、タンガニイカ・シクリッド専用、アフリカン・シクリッド専用のpH調整剤(緩衝液、バッファー)の中には、これらの機材の使用を推奨しているものもあります。(本当に必要かどうかは分かりません。)
 

リバースオスモシス(R/O、逆浸透)装置?

半透膜という水分子は通しても水に溶けている物質(溶質)は通さない膜に水を通して、溶質を取り除く装置です。溶質の分子やイオンにはいくつかの水分子が結合して(これを水和と言う)粒が大きくなっているので、ある大きさの穴をもった膜は、水分子は通過できても溶質は通過できないそうです。要は半透膜を通して水を押し出しているだけですが、何故「逆」浸透かと言うと、溶質を含んだ水と含まない水がこの半透膜を挟んで存在するとき、通常は「浸透圧の法則」によって溶質を含まない方の水が含む方へ移動(浸透)しようとするのに、圧力をかけることで無理やり逆方向に押し出しているからです。イオン交換樹脂と異なり、イオン以外の溶存物質も取り除かれるようです。また、半透膜に負担をかけないため(寿命を延ばすため)、通常活性炭フィルターを通した水を半透膜に通すシステムになっているようです。リバースオスモシス装置で得られる水は魚にとっては溶存物質が少なすぎる水なので、軟水を好む魚の飼育にもこのままでは使用できず、何らかの水質調整をする必要があります。
 

イオン交換樹脂?

表面に(内部にも)正(+)又は負(−)の電荷をもつプラスチックのビーズの様なものです。これを浄水器の槽に詰めて水を通せば、水中のイオンが樹脂に結合するため水から除かれます。+電荷をもつ樹脂は陰イオン(−電荷をもつイオン)を結合するので陰イオン交換樹脂、−電荷をもつ樹脂は陽イオン(+電荷をもつイオン)を結合するので陽イオン交換樹脂と言います。2種類の樹脂を混合して一つの浄水槽に入れてある場合と、連続する二つの浄水槽に別々に入れてある場合があるようです。イオン「交換」樹脂と言う理由は、実際の反応では、陽イオン交換樹脂の場合、始め樹脂の−電荷部分には水素イオン(H+)が結合しており、周りの水中にナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)などH+より強く樹脂上の−電荷部分と結合するイオンがあると、H+と置き変わるように樹脂に結合するからです。陰イオン交換樹脂では、硝酸イオン(NO3)、硫酸イオン(SO42-)、塩素イオン(Cl)などが樹脂上の水酸イオン(OH)と置き変わります。

つまりイオン交換樹脂でイオンを除くとその分H+、OHが水中に放出されることになりますが、通常これによるpHの変化は問題になりません。その主な理由はもともと水中のイオンは少なく、それとの交換により放出されるH+、OHも少ないと言うこと、H+、OHの両方が放出されれば都合上H2Oになってしまうことですが、もう一つは、pH緩衝能(pHの緩衝?の項目参照)をもつ物質(バッファー成分)も取り除かれるため、仮にpH自体が低く(高く)なった場合でも、水の使用時に添加する物質が規定するpH値に間単に調整されるからです。イオン交換樹脂ではイオン以外の電荷をもたない溶存物質は取り除けませんので、通常活性炭フィルターを通した水をイオン交換樹脂に通すシステムになっています。もちろんイオンの結合量には限界があります。結合したイオンで飽和された樹脂は、産業的には酸とアルカリで洗浄することで再生して繰り返し使用するのが常識ですが、観賞魚用のものは使い捨てにしている人が殆どではないでしょうか。この水も魚にとってはイオンが少なすぎ、このままでは飼育には使用できません。
 

pH?

pHまたはpH(pが斜体)と書いてピーエイチ、古くはドイツ式にPH(Pが大文字)と書いてペーハーと読むようです。水素イオン(H+)のモル濃度の逆数の常用対数で定義されています。
 H+濃度が高い=pHが低い=酸性
 H+濃度が低い=pHが高い=アルカリ性
という関係があります。アルカリ性とは水酸イオン(OH)の濃度が高いことでもありますが、水中のH+のモル濃度とのOHのモル濃度の間には、(H+のモル濃度)×(OHのモル濃度)が一定の値(10-14)に保たれるという関係がありますので、
 H+濃度が低い=OH濃度が高い
と、これは同じ化学現象を別の言葉で言っていることになります。
 (H+のモル濃度)×(OHのモル濃度)=10-14
ですので、H+とOHのモル濃度がちょうど同じときのH+のモル濃度は10-7M(モル)となり、このときのpHは7.0です。これが中性です。タンガニイカ・シクリッドの飼育水としてはpH8.0−9.0が適当とされます。pH7.5でも長期間状態良く維持されている例もあるようです。一般的な熱帯魚の水質調整でpHが9.0まで上ることはまずありません。実際のタンガニイカ・シクリッドの水槽のpHは7.8−8.3のことが多いのではないでしょうか。アフリカン・シクリッドは弱アルカリ性の水を好むと言われますが、pH6.0を弱酸性、pH8.0を弱アルカリ性などと言うのは熱帯魚関係者くらいで、世間一般にはpH6.0−8.0は中性の範囲に入ります。南米産のチェッカーボード・シクリッドなどの生息地の水はpH4.0程度と言われます。
 

pHの緩衝?

大量の純水にほんの僅かの塩酸(HCl)を溶かせば弱酸性になり、ほんの僅かの水酸化ナトリウム(NaOH)を溶かせば弱アルカリ性になりますが、水槽や河川、海の水のpHはこのような単純な原理では説明されません。HClは水中では完全に電離してH+とClになっていますが、水槽の水に多く溶け込んでpHを決めているのは、HClなどとは異なり、水中で部分的にしか電離していない弱酸や弱塩基だと言われます。これらは、ある割合で部分的に電離した状態が最も安定であるため、この割合が乱れるような物質の増減があると、元の状態に戻ろうとする傾向があり、このためpHを安定させる能力があります。これをpH緩衝能と言い、この緩衝能をもつ物質をバッファーといいます。

アフリカン・シクリッド水槽でこのバッファーとして機能しているのは殆どの場合、炭酸(炭酸イオン)だと言われますので、炭酸の例で具体的に説明してみます。水中での炭酸は以下の4種類の状態で存在しています。
 二酸化炭素(CO2
 CO2が水分子(H2O)と反応してできる炭酸(H2CO3
 H2CO3が電離してできる水素イオン(H+)と一価の炭酸イオン(HCO3
 HCO3がさらに電離して出来るH+と二価の炭酸イオン(CO32-
つまり炭酸を含む水中には、CO2、H2CO3、HCO3、CO32-、H+の5つの物質がある割合で含まれているのです。反応としては、条件によりこれと逆向きも起こります。つまり、
 CO32-とH+の結合によるHCO3の生成
 HCO3とH+の結合によるH2CO3の生成
 H2CO3の解離によるH2OとCO2の生成
も起こります。H2Oは圧倒的に量が多いため、この反応による極僅かな増減は問題になりません。

この5つのバランスは何時も一定の割合と言う訳ではありませんが、「平衡」という原理に基づいたある関係式で表される割合に落ち着こうとする性質があります。そしてその割合は、大まかに言って、
 CO2、H2CO3はH+が多いと(酸性では)多く、H+が少ないと(アルカリ性では)少ない
 HCO3は弱酸性から弱アルカリ性の範囲でほぼ一定
 CO32-は弱酸性から中性では殆どなく、弱アルカリ性で少しある
となります。タンガニイカ・シクリッドの飼育水のpHの範囲では、HCO3が最も多く、次がCO2とH2CO3を合わせたもので、CO32-はほんの少しというバランスと考えていいと思います。

pHつまりH+の濃度はCO2、H2CO3、HCO3、CO32-、H+がこのバランスを維持しようとする性質で決定されると考えます。CO2、H2CO3、HCO3、CO32-を多く含む水ではこのバランスを維持しようとする性質のため、多少の外からのH+の流入やH+の除外(OHの流入)があってもpHは急激には変化しません(流入、除外が続くと徐々に変化します)。

H+が流入する場合、平衡バランス維持のため、
 CO32-とH+の結合によるHCO3の生成
 HCO3とH+の結合によるH2CO3の生成
 H2CO3の解離によるH2OとCO2の生成
が順次起こりH+が消費されるため、pHの急激な上昇は起こりません(穏やかに上昇します)。

H+が除外(OHが流入)される場合、平衡バランス維持のため、
 HCO3の解離によるCO32-とH+の生成
 H2CO3の解離によるHCO3とH+の生成
 これにより減少したH2CO3を補うための、H2OとCO2の結合によるH2CO3の生成
が順次起こりH+が水中に放出されるため、pHの急激な下降は起こりません(穏やかに下降します)。OHが流入する場合は、H+と反応してH2OになるためH+が除外されるのと同じことになります。

これがpHの緩衝で、H2CO3、HCO3、CO32-がバッファーとして機能しているのです。H+の増加または減少がH2CO3、HCO3、CO32-のもつ緩衝能の限界を超えたときにはpHは急激に変化してしまいます。逆にCO2、H2CO3、HCO3、CO32-のどれか一つの増減がある場合には、「平衡」で決まるバランスを取り戻すため、これらによるH+の吸収または放出が起こり、pHが(穏やかに)変化します。以下で水槽でよくある場合について具体的にpHが決まるメカニズムを考えてみます。
 

CO2が水に溶ける場合のpH変化?

CO2は水に溶けやすく水槽の水には大気中のCO2が溶け込んでいます。また水草水槽では植物の光合成を促進するために、弱酸性の水を好む魚の水槽ではpHを下げるために、CO2を添加する場合があります。CO2の溶解でpHが下がるメカニズムは次のようになります。CO2が水に溶けるとCO2、H2CO3、HCO3、CO32-、H+のうちCO2のみが増えるため、この5つの間のバランスに「平衡」からのズレができます。これが本来の割合に戻ろうとするため、CO2の一部がH2Oと反応してH2CO3になり、H2CO3の一部がH+とHCO3に電離してH+が増加するためpHが低下します。しかし、この先の反応が難しいところです。考えられる反応の一つはHCO3の一部のH+とCO32-への電離によるさらなるpHの低下、もう一つは逆に増加したH+とCO32-の結合によるHCO3の生成です。CO2を含む水には炭酸カルシウム(CaCO3)が溶け易くなるという事実から考えて、サンゴ砂や石灰岩を入れた水槽で起こるのは後者の反応だと思います。つまり、CaCO3が溶けて出来たCa2+とCO32-のうちCO32-がCO2の溶解で発生したH+と結合してHCO3となり、これでCO32-が減少すると新たにCaCO3が溶解して来るのです。(図B参照)この反応ではCO32-がHCO3に転換していくため水中にはCa2+とHCO3が増加し、都合上、炭酸水素カルシウム(Ca(HCO3)2)が水に溶けている状態になると考えられます。このようにCaCO3の溶解ではH+の吸収が起こるため、サンゴ砂や石灰岩を入れた水槽では、CO2が水に溶け込んでも普通の水槽のようにはpHが低下しないと思われます。
 

炭酸カルシウム(CaCO3)が水に溶ける場合のpH変化?

先にも書いた通り、サンゴ砂や石灰岩の主成分はCaCO3で、pHの低い水にはこれが溶け出すことでpHが多少上ります。CaCO3は通常は水に殆ど溶けず、酸や二酸化炭素を全く含まない純水に対する溶解度は15mg/L(ミリグラム/リットル)くらいとも言われます。しかし少しでも解け出すとCO32-が増加し、CO2、H2CO3、HCO3、CO32-の割合が「平衡」で決まる本来の割合からずれるため、平衡を取り戻すためにCO32-の一部が水中のH+と結合してHCO3となり、さらにHCO3の一部がH+と反応してH2CO3、H2CO3がH2OとCO2になります。(図C参照)結果としてH+が消費されて減るためpHが上ります。この反応はH+が多く存在する場合にはどんどんと進み、CO32-がHCO3となって減少するとその分CaCO3が溶解してきます。H+が少なくなってくるとこの反応は進まなくなり、pHの上昇とCaCO3の溶解が止まります。CaCO3の粉末を「純水」に飽和するまで溶かしたときのpHは9.5にもなりますが、サンゴ砂を飼育水に入れた場合はpH7.3−7.8程度にしかならない場合が多いようです。

正常に機能しているフィルターからは、水中にH+が放出されます。(3.生物濾過硝化細菌?の項目参照)このようにH+が次々と供給される水槽にCO32-の供給源としてサンゴ砂や石灰岩が入れてあれば、CO32-とH+によるHCO3の生成とHCO3とH+によるH2CO3、さらにH2OとCO2の生成でH+が次々と消費され、pHはそれ程下がりません。CO32-が消費されると新たにCaCO3が解け出してCa2+とCO32-が供給されるわけですから、水槽全体のCa2+とCO2、H2CO3、HCO3、CO32-の合計量はどんどん増加していくことになりそうです。しかし、水に溶けきらないCO2は空気中に揮発して行きます。したがって、サンゴ砂、石灰岩中のCaCO3のCO3部分はCO32-、HCO3、H2CO3、CO2と転換されどんどん空気中へ放出されて行くことになります。(図F参照)一方Ca2+の方は水槽外へは排出されず、どんどん蓄積していくことになります。サンゴ砂、石灰岩を使い強力なフィルターにものを言わせて殆ど水を換えない水槽や、魚を過密飼育している水槽では、Ca2+の濃度が魚にとって危険な程に上ってしまうことがあるそうです。CaCO3が水に殆ど溶けないのは純水や、中性、アルカリ性の水の場合で、酸性のときやH+が供給されるときには溶け過ぎるのです。
 

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3、重炭酸ナトリウム、重炭酸ソーダ、重曹)を水に溶かす場合のpH変化?

以上の項目では、H+、CO2、H2CO3、HCO3、CO32-のうちCO2、H+、CO32-が外から供給される場合について説明したことになります。では、HCO3が供給される場合はどうでしょうか。HCO3は炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を水に溶かしてやることで供給できます。NaHCO3は市販のpH上昇剤の主成分でもあるようです。この場合は、NaHCO3が電離して出来るHCO3がCO2、H2CO3、HCO3、CO32-の間の「平衡」に及ぼす影響を考えます。増加した分のHCO3が「平衡」の原理で決まるCO2、H2CO3、HCO3、CO32-の割合に落ち着くためには、水中のHCO3の一部がH+と結合してH2CO3、さらにH2OとCO2を生成しH+を消費する反応と、HCO3が解離してH+とCO32-になる反応の両方が起こるはずです。平衡の中でCO32-は少ないので後者の反応は前者の反応より少ししか起こらず、全体としてはpHの上昇が起こります。(図D参照)H+が少なくなってくると、H+とHCO3の反応によるH2CO3の生成が止まり、pHの上昇も止まります。上限はpH8.5くらいではないでしょうか。NaHCO3を入れ過ぎてもこれ以上にはならないはずです。

NaHCO3を使う場合でも、フィルターからのH+の供給がある場合は、次々と生成されたCO2が大気中へ揮発して行くはずです。これを補うためにはNaHCO3を追加してやる必要があります。これを繰り返しているとナトリウムイオン(Na+)が水槽内に蓄積してきます。さて、弱アルカリ性の水槽ではNaHCO3を追加したときには、CO32-も僅かに増加する訳ですが、少し心配なのはこれによるCa2+の溶解度の低下です。CaCO3が水に溶けるときには、(Ca2+の濃度)×(CO32-の濃度)が一定という関係がありますので、CO32-の濃度が上っただけでもCa2+が溶けていられなくなり、CaCO3として沈殿してしまう可能性があると思います。(図E参照)しかしこれはCa2+とCO32-の濃度がタンガニイカ湖水のものよりも遥に高い場合に起こることであって、余り気にしなくても良いようです。

海外の飼育書では始めから飼育水に0.3g/l(グラム/リットル)のNaHCO3を溶かすことを奨励している場合もあります。0.1g/lでも十分な場合が多いようです。日本でも実験用にメダカなどを飼う場合にはNaHCO3を溶かした水を使うことが多いようです。NaHCO3には使用目的により色々な品質のものが市販されていますが、食品に添加するものか日本薬局方のものを使用するのが一般的でしょう。(薬品には食品添加物、日本薬局方、試薬特級などの様々なグレードがありますが、生産過程が異なるものと、生産過程は同じでその後の品質試験の方法が違うだけのものがあります。後者の場合、価格が違っても品質自体は同じです。)NaHCO3によってはpH8.5程度までしか上りませんが、始めの少量で急激にpHが上昇しますので、魚を飼育している水槽に加えるときは、水換えのときに捨てる水で一度試してから、少しずつ時間をかけて溶かした方が良いでしょう。
 

リン酸カルシウムを使用する場合のpH変化?

以上では炭酸イオンがバッファーである場合を説明しました。タンガニイカ湖でも炭酸イオンの緩衝作用でpHが決まっていると言われます。水槽内では、もう少し緩衝力の強いリン酸イオンをバッファーに使う場合もあります。リン酸(H3PO4)が水に溶けると、H3PO4、H2PO4、HPO42-、PO43-の4つの状態の間の「平衡」となります。実際上は殆どがH2PO4かHPO42-として存在しており、これらの緩衝作用によりpHが決定されているそうです。弱酸性の水を作る場合には、リン酸二水素一ナトリウム(NaH2PO4)を加えます。リン酸一水素二ナトリウム(Na2HPO4)なら弱アルカリ性になりますが、これ単独の使用ではpHが少し上がり過ぎるかも知れません。生化学実験などでは、NaH2PO4とNa2HPO4を適当な割合で混合して目的のpHに調整するようです。例えば、pH8に調整するには、Na2HPO4に少しだけNaH2PO4を混ぜます。

最近見かけなくなりましたが、10年以上前には「コッタン」(骨炭)と言う牛の骨を焼成して作った熱帯魚用の活性炭が販売されていました。パッケージにはフロントーサとクマノミが描かれており、弱アルカリ性のpH調整に使うこともありました。これは一義的には活性炭であって、水中の物質を吸着して取除く物理濾過のために使われるものですが、主成分はリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)です。骨の主成分はCa3(PO4)2ではなくハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)であると言われますが、焼成により、かなりの部分がCa3(PO4)2に変化しているのではないかと思います。骨や歯の主成分であるCa10(PO4)6(OH)2は、水には本当に溶けにくく、その粉末を純水に入れて放置しておいてもpHの変化は殆どありません。一方、Ca3(PO4)2は少しなら水に溶けるので炭酸カルシウム(CaCO3)のところで説明したのと同じ様なメカニズムでpHを上昇させます。pHの上限はサンゴ砂の場合とほぼ同じか少しだけ高い程度ですが、CaCO3よりも確実にpHが上がるように思います。リン酸には気体型はなく揮発することはないので、フィルターからH+が発生する水槽で長期間水換えをしないと、Ca2+と共にH3PO4、H2PO4が蓄積してきます。吸着濾材としての寿命は短いと言われますが、pH安定用には長期間使用可能でした。タンガニイカの湖水に含まれる様々な分子形態でのリン原子の合計濃度は0.004−0.01mg/L程度で非常に少ないようです。
 

コッタン

 

pHとアンモニアの毒性?

魚を飼う以上は必ずアンモニア(NH3)が発生します。(3.生物濾過フィルター?の項目参照)NH3は毒性が強く、水中に0.1mg/L(ミリグラム/リットル)存在するだけでも魚が死んでしまうことがあると言われます。酸性や中性の水中ではNH3が水素イオン(H+)と反応してアンモニウムイオン(NH4+)になっています。NH4+はNH3よりも遥かに毒性が弱く、このため弱酸性の水中では魚はNH3による強いダメージを受けないで済むと言われています。しかし、pH8以上のアルカリ性の水中では、H+の濃度が低いため「平衡」の原理でNH4+の生成が起こりにくくなり、10−20%がNH3のまま存在するそうです。したがってpHの高い水槽ではNH3の毒性が強く出ることになります。NH3が水槽内の硝化細菌によって硝酸イオンに転換されると毒性が弱くなりますが、この反応は弱アルカリ性の水槽の方が効率的に進むようです。(3.生物濾過硝化細菌?の項目参照)
 

pHの測定?

水道水の水質によってはサンゴ砂では十分にpHが上がらない場合もあります。同じpHの水でも、そのpHを維持する緩衝作用をもつ物質、つまりバッファーとなる物質の濃度が高い場合には、簡単にはpHが上がってくれないのです。そのような心配がある場合には実際にpHを測ってみる必要があるでしょう。観賞魚の飼育水のpH測定用には、pHメーター、pH指示薬、pH試験紙などが市販されています。飼育水のpH測定にはこれらで十分ですが、観賞魚用のものはどれもそれ程正確なものではありません。
 

pHメーター?

観賞魚用にはスティック型のものと、電極と本体が分かれた構造のものが市販されていますが、どちらも金属電極を使用しています。このタイプのものはpHメーターとしては上等ではなく、pH±0.1に拘るような正確な測定はできないようです。また、何かの加減でとんでもない値を示すことがあるとも言われます。観賞魚用にはこれで十分ですが、どうしても正確に測りたいならガラス電極のものが必要でしょう。異常な数値を示したときの確認のためにpH試験紙なども備えておいた方が良いのではないでしょうか。注意点としては、使用前後に電極(水につける部分)をよく洗う。(これは出来れば蒸留水を使うべきです。)必ず較正する。pH較正液という特定のpHの溶液が市販されていますので、この液に浸けたときに正しいpHを示すように調整しておかなければなりません。
 

pH指示薬?

これはpHにより色の変化する指示薬を水に添加して、色変化から判断する方法です。
 

pH試験紙?

これはpH指示薬が塗られた紙を水に浸けたときの色変化からpHを読み取るものです。pH試験紙は一般に、水槽の水などの緩衝能の弱い(バッファーとなる物質の濃度が低い)サンプルに対しては反応が鈍く、長時間浸けておかないと正しい色にならないようです。ものによっては10分以上かかる場合もあります。粗悪な製品ではこの間に指示薬自体が紙から流れ落ちてしまって使い物にならないので注意が必要です。
 

硬度?

総硬度と炭酸塩硬度があります。
 

総硬度(GH)?

総硬度とは水に溶け込んでいるカルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)の合計量を表す指標です。定義にはドイツ式とアメリカ式がありますが、日本でいまだにドイツ式を使っているのは、熱帯魚関係者くらいだと思います。
 

ドイツ式総硬度?

ドイツ式の総硬度(GH)は水中のCa2+が全て酸化カルシウム(CaO)、Mg2+が全て酸化マグネシウム(MgO)になったと仮定して計算します。この計算はCaOが基本で10mg/L(ミリグラム/リットル)のCaO相当のCa2+を含む水のGHを1dHと定義します。CaOとMgOでは分子量が異なりますが、MgOは同じモル数のCaOの質量に換算して計算します。CaOはMgOの1.4倍の分子量をもちますので、
 [水1リットル中の{(Ca2+がCaOになった場合のミリグラム数)+1.4×(Mg2+がMgOになった場合ののミリグラム数)}]÷10
がその水のドイツ式GHです。タンガニイカ湖水はGH10程度とされていますが、飼育水としてはGH5程度でも問題ないようです。飼育に問題のない上限はちょっと判りません。さて、何故CaO、MgOに換算するのでしょうか。これはCaO=石灰、MgO=苦土という判りやすい物質であると同時に測定操作が容易という理由もあるようですので、炭酸塩硬度?の項目を参照して下さい。
 

アメリカ式総硬度?

アメリカ式の総硬度(GH)は水中のCa2+が全て炭酸カルシウム(CaCO3)、Mg2+が全て炭酸マグネシウム(MgCO3)になったと仮定して計算します。この計算もCaCO3が基本で1mg/L(ミリグラム/リットル)のCaCO3相当のCa2+を含む水のGHを1と定義します。実際に多く存在する炭酸塩に換算する点と、何となく10で割ったりせず1mg/Lを1とする点で実用的であると思います。炭酸塩に換算しますが、これは炭酸塩硬度ではなく総硬度です。この場合もCaCO3とMgCO3の分子量の違いを考慮して、MgCO3は同じモル数のCaCO3の質量に換算して計算します。CaCO3はMgCO3の1.2倍の分子量をもちますので、
 水1リットル中の{(Ca2+がCaCO3になった場合のミリグラム数)+1.2×(Mg2+がMgCO3になった場合のミリグラム数)}
がその水のアメリカ式GHです。ドイツ式GHとアメリカ式GHの間には、
 ドイツ式GH1=アメリカ式GH17.85
の換算式が成立します。
 

軟水と硬水?

私が習った頃には、ドイツ式で10以下が軟水、20以上が硬水と定義されていました。この定義ではタンガニイカの湖水は軟水になってしまいます。ヨーロッパ産のミネラルウォーターの中にはGH80以上のものもありますので、昔のドイツ人の定義としては妥当なのかもしれません。現在の日本ではアメリカ式で100以下が軟水、200以上が硬水と定義するのが普通だそうです。現在のヨーロッパではアメリカ式で500以下が軟水、1,000以上が硬水とするようです。この定義は普遍的なものではなく、例えばWHO(世界保健機構)の飲料水に対する定義など色々あるようです。
 

総硬度の測定?

金属指示薬とキレート滴定法を組み合わせた観賞魚用の総硬度を測定するためのキットが市販されています。化学実験で色が変わる瞬間が好きな人にはお奨めです。
 

伝導度計?

「硬度を測定する」機器として観賞魚用の伝導度計というものも市販されています。これは水の電気伝導度を測定するものなのですが、水の電気伝導度はCa2+、Mg2+だけではなく、Na+、K+を始め、あらゆるイオンによって決定されるものなので、伝導度は必ずしも硬度を反映しません。「電気伝導度」という言葉が慣用的に指す物理量には2通りあるようです。一つは電気抵抗の逆数で単位はジーメンス(S=1/Ω)ですが、水の電気抵抗といっても測り方(電極間の距離と電流の流路の断面積)で当然異なります。物体の電気抵抗は長さに比例し断面積に反比例します。水質の指標に「電気伝導度」を用いる場合は、長さと断面積から電気抵抗値を求めるときの比例定数にあたる比抵抗(単位はオームメートル:Ωm)の逆数で定義される比電気伝導度(単位はジーメンス/メートル:S/m=1/Ωm)を使うのが正しいはずです。つまり水の形に依存しない定数です。単位を間違えている熱帯魚本が多いのではないでしょうか。淡水では一般にマイクロジーメンス/センチメートル(μS/cm=1/10,000 S/m)の単位が使われます。タンガニイカ湖水の比電気伝導度は600μS/cm程らしいです。チェッカーボード・シクリッドなどが生息するネグロ川やオリノコ川の上流では、1−3μS/cm程度と言われます。
 

エプソム塩?

飼育水の総硬度を上げたい場合、日本ではサンゴ砂や石灰岩からCaが溶け出すのを待つか、Ca2+、Mg2+を含む添加剤を入れるのが普通ですが、海外ではエプソム塩(Epsom salt、エプソムソルト、シャリ塩)と言うものを加えることがあるようです。エプソム塩は、アメリカなどでは家庭に普通に置いてあるもののようです。主成分は硫酸マグネシウム(MgSO4)です。水に対する溶解度は高いのですが、対イオンが硫酸イオン(SO42-)である点が多少気になります。毒性は特にないと思いますが、一般に淡水は(海水と違って)余り高濃度のSO42-を含まないようです。嫌気的な領域の大きい水槽では硫酸還元細菌による硫化水素(H2S)の発生もないとは限らないように思います(3.生物濾過硫酸還元細菌?の項目参照)。私はこの目的のためには、塩化マグネシウム(MgCl2)を使用します。もちろん、自分の水の硬度を測定した上で、量を計算して添加する必要があります。
 

Ca2+:Mg2+の比?

GHはCa2+とMg2+で決まります。Ca2+とMg2+は化学的性質は類似していても、生物学的機能は異なりますので、その比率は重要だと思います。日本の平均的な河川水のCa2+:Mg2+の比は約3:1とされ、水道水もその程度であると予想されます。一方、タンガニイカ湖水ではこの比率が逆になっているようです。したがって硬度が高いとは言っても、タンガニイカ湖水のCa2+濃度はGH3程度の日本の水道水と大差なく、違うのはMg2+と言うことになります。硬度を調整するためにはMg2+を加えるのが合理的だと思います。タンガニイカ湖周辺の地質にはCaCO3だけでなくMgCO3を含むドロマイトのような鉱物が多いと推測されます。MgCO3の方がCaCO3よりも水に溶け易いためにこの比率になるのだと思います。
 

炭酸塩硬度?(KH、本来の意味による)

ヨーロッパ産の本当に硬度の高いミネラルウォーターを煮沸するとヤカンの底に白い沈殿が析出します。これは主にCaの炭酸塩であるCaCO3とMgの炭酸塩であるMgCO3の結晶だそうです。硬度の高い自然水にはCO2が水に溶ける場合のpH変化?の項目で説明したCaCO3の溶解と同様の原理でCa2+、Mg2+とHCO3が溶けています。HCO3は温度の高い水には溶けていることが出来ませんので、水を煮沸すると一部はCO2として大気中へ揮発し、残りはCa2+、Mg2+と結合して炭酸塩を形成すると言うのです。これを水から出して加熱すると、乾燥するだけではなく、気体のCO2を発生してCaOとMgOになるそうです。総硬度の場合と同じくMgOの質量の1.4倍をCaOの質量に加え、元の水1リットル当たりのミリグラム数を10で割ったものがドイツ式炭酸塩硬度(KH)です。元の水の中のCa2+、Mg2+には煮沸によって炭酸塩として析出した分と析出しないで水(湯)に溶けたまま残った分がある訳ですが、この炭酸塩になった分で計算するのが炭酸塩硬度で、溶けたまま残った分がCaO、MgOになったとして計算した硬度を永久硬度と言います。ですから、
 総硬度=炭酸塩硬度+永久硬度
となります。炭酸塩にならなかったCa2+、Mg2+の対イオンとしては硫酸イオンSO42-、塩素イオンClなどが主であるようです。
 

炭酸塩硬度?(KH、測定上の数値として)

 総硬度=炭酸塩硬度+永久硬度
であるならば、どんな場合でも、
 総硬度>炭酸塩硬度
のはずです。しかし、タンガニイカ湖水の成分表などを見ると、総硬度が10程度なのに対して、炭酸塩硬度が18程度になっています。これは一体どういうことなのでしょうか。実は市販の観賞魚用炭酸塩硬度測定キットも含め、簡便な炭酸塩硬度測定法で測定しているのは炭酸塩硬度ではないようです。硬度とはCa2+、Mg2+の量に対して定義されるものですが、一般に炭酸塩硬度として測定しているのは、これらと塩を形成する可能性がある炭酸水素イオン(HCO3)や炭酸イオン(CO32-)の量だと言うのです。(CO32-は極微量しか存在しません。)そしてその実際の測定では、サンプルのpHを4まで下げるのに必要な酸の量を測っているに過ぎないと言うのです。これはpH緩衝能、またはアルカリ度と言うべきもので炭酸塩硬度ではないはずです。酸として加えられるH+はHCO3、CO32-と反応してH2OとCO2になるため、pHは急には低下しませんが、HCO3、CO32-が消費され尽くすと急激にpHが下がり始めます。この変化はpH4の辺りで起こります。これまでに必要な酸の量から1リットル当たりのHCO3の量(モル数)を計算し(CO32-は少ないので2HCO3として計算して問題なし)、これの半分の(1Ca2+は2HCO3と対を形成しているため)モル数のCaOのミリグラム数を10で割ったものが「炭酸塩硬度」として記載されているようです。水の中に炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)などが溶け込んでHCO3が多量に存在する場合や、HCO3、CO32-以外の弱酸イオン、例えばリン酸イオン(HPO42-)が溶けている場合には、これらも測定されてしまい、Ca2+、Mg2+の量よりも大きな数値になってしまうのです。

さてそうすると、「炭酸塩硬度」とはpHの緩衝能、pHの変化し難さを表していると言えるでしょう。自然水では一般に総硬度が高い場合には炭酸塩硬度も高く、pHが安定しているといえます。硬度の魚に対する影響として、一義的なCa2+、Mg2+の濃度以上にこのpHの緩衝力が効いていることも考えられるのではないでしょうか。
 

浸透圧?

水によく溶ける物質を水に入れておくと自然に混ざって、より均一な状態に向かって行きます。水分子は通すが溶けている物質(溶質)は通さない膜(リバースオスモシス(R/O、逆浸透)装置?の項目参照)、つまり半透膜を挟んで片方に溶質の濃い水溶液、もう片方に薄い水溶液があるとき、水分子は薄い方から濃い方へ膜を通過して行きます。これがもし逆だと、濃い方はより濃く、薄い方はより薄くなり、均一でない状態へ向かっていくことになりますが、そのようなことは自然には起こりません。水分子が薄い水溶液から濃い水溶液へ移動していけば、最終的に両方の水溶液は同じ濃度になり、均一な状態に近づいたことになります。

濃い水溶液が半透膜の袋に密閉されて薄い水溶液中に置かれた場合、水分子が流入して来るに連れて体積が増えて袋がパンパンに張ってきます。(袋に強度が足りない場合には弾けてしまいます。)袋に張りができると中の圧力は高くなり、逆方向に水分子を押し出す力が出てきます。水分子の流入とこれを押し出そうとする力が吊り合ったとき、見掛け上水分子の移動は止まります。このときの袋の張りで生ずる圧力は袋内外の水溶液の「浸透圧の差」に等しくなっています。

半透膜の袋の外側を純粋な水にしたとき、袋がパンパンに張って水の出入りが止まったとすると、そのときの袋の張りで生じている圧力がその溶液の「浸透圧」です。上の場合のように、純粋な水ではなく内外に濃度の異なる溶液があって袋が張りつめている場合の袋の張りによる圧力は、それぞれの溶液が純粋な水の中の袋に入っている場合の浸透圧の「差」に等しくなります。

これらの場合とは逆に、薄い水溶液を半透膜に封入して濃い水溶液中に放置した場合、水分子が抜け出して袋がしぼんでしまいます。水分子が抜けることで水溶液の濃度が上がり、袋の外と同じになるまで水が抜け続けます。

魚の体全体や一つ一つの細胞もこの半透膜の袋と同じようなものと言われます。淡水魚の場合は体や細胞の内側の方が周りより物質濃度が高く、水が浸入しやすいため、エネルギーを使ってこれを調節しているそうです。腎臓で塩濃度の低い尿を生産して水を排出したり、鰓から塩類を能動的に取込んだりしているようです。タンガニイカ湖水の浸透圧は残念ながらよく判りません。浸透圧は電化の有る無しに拘わらず溶けている全ての物質によって決まってくるものなので、硬度などから計算した値よりは大きくなるはずです。シクリッドは一般に浸透圧に対する調節能力が高く、ティラピアの仲間などにはほぼ海水でも生きて行けるものもいるようです。しかし、pH、硬度などの数値が同じであっても溶けている物質全体の濃度が変化する場合には浸透圧が変化し、魚はこれに適応するために大きな負担を強いられている場合もあることを考えるべきではないでしょうか。
 

微量ミネラル?

動物の生命活動のためには多種類のミネラル分を必要としますが、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉄(Fe)などと比較して極めて微量に必要なミネラルを微量ミネラルと言います。ホウ素(B)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、錫(Sn)、ヨウ素(I)の15種類程が知られていて、μg/L(マイクログラム/リットル)以下の単位で表されるような極微量が必要ですが、多いと毒性をもつものも少なくありません。V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Moなどの遷移金属はイオンとなって蛋白質(酵素)などに配位結合しているようです。Iについては1. 魚の種類と名前メタリック・ブルー?の項目を参照して下さい。これらの内の数種類を含んだ添加液が市販されています。殆どのものは水道水や餌に微量に含まれており、また、底床のサンゴ砂などから溶け出すとも言われています。
 

サラサラの塩?

普通の食塩(NaCl)の話ですが、サラサラの食塩にはサラサラにするための添加物が少量含まれています。これには炭酸マグネシウムと言う名目で塩基性炭酸マグネシウム(4MgCO3·Mg(OH)2·4H2O)が使われていることが多く、水に溶かした場合、アルカリ性になると言われます。しかしこれは微量のため飼育水のpHには殆ど影響しません。これとは別の物質で、海外では同じ目的で食塩によく添加されているフェロシアン化物(フェロシアン化カリウム=ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム=K4Fe(CN)6、フェロシアン化ナトリウム=ヘキサシアノ鉄(II)酸ナトリウム=Na4Fe(CN)6、フェロシアン化カルシウム=ヘキサシアノ鉄(II)酸カルシウム=Ca2Fe(CN)6?)が日本でも認可されたようです。魚への毒性は判りませんが、海外の飼育者はこの添加物を含む塩の使用を避けている場合があります。これを含む場合には添加物として表示義務があるようです。